Concept
海辺の町に対して、雄勝に訪れる前まではざっくりと穏やかでスローな印象を抱いていました。 実際に通い続けると、漁師さんの仕事ぶりや住民の方の日々の営為や話ぶりや仕草、歴史を遡ってみたいという欲望を掻き立てる土地のミステリアスさ、 そして太古にまで想像の幅を拡張させられてしまう圧倒的な海や山や空の大自然があると知りました。前提イメージを超越してくるそれらのワイルドさとスケールに飲み込まれ、雄勝にくると必 ず「島国に生きている」という実感を反芻します。雄勝の各浜の風景をミックスした時代性を特定させないワイドな一枚の絵の中には、左から、夕→昼→朝→夜と時間軸も混在させており、これは北上川沿いにある大川小学校遺構に残されている児童壁画の構成を参照させていただきました。また、雄勝にはリアスの地形からなる独特な移動体験がありました。 各地区・浜間を移動するには、海側→山→海側というルートを通るのですが、その際に山の中の木々の隙間から見える対岸や水平線の見え方に魅力を感じ、”抜けの窓”をいくつも設ける構成をベースにしました。この壁画はこれから毎日、晴れの日も雨の日も、移り変わる四季や、対岸の山や一秒ごとに表情を変える空、走る車や生活する人と共に風景を作っていくでしょう。 そして人がここにいる限り、ここでその光景を眺めて「観て想う」ことは続けられていくのだと信じているし、そこにある存在と状況のすべてとともに成立する作品なのだと、壁画の制作中にずっと考えていました。そして、この作品のタイトルを「テオリア」と決めました。 テオリアは「観想」という意味のギリシア語です。スペルを分解するとTHE / O(Ogatsu) / RIA(rias) と「雄勝の岸辺」と読むこともできます。いつまでも、観る人たちがこの壁画を含む雄勝の雄大な風景を前に、視野の先にある没入と想像の時間を過ごしていてくれたらな、と願っています。