CONCEPT
石巻市の漁村にある小学校の中庭、中心に位置するすり鉢状の階段部の初見の印象は、”穴”だった。隕石が落ちた後の陥没したかのような凹み。さらに特徴的なのが、学校前の県道から見下ろせるという立地。
そんなことを考えていたら、ちょうど僕が今年2023年の4月にインドを周っていた際に足を運んだアジャンターケイブという遺跡にリンクしている点があると気づいた。このアジャンターケイブの中心部には川が通っており、学校の階段部の中心部が鯉のいる池があるという点も重なった。そして、この遺跡は大きな1枚岩の山に約30の洞窟が掘られていて、それぞれの洞窟が3つの宗教からなる部屋が作られている。各部屋には彫刻や天井があしらわれて、中には修行僧が籠るためのベッドルームもあったりした。
”穴”に関して。漫画『バガボンド』には「おっさん穴」というモチーフが登場する。主人公の宮本武蔵が壁にぶつかった際に思い出す、幼き頃に通っていた山の中にある洞窟を指す。「純粋無垢に楽しくて仕方なかったあの頃」、「面白くて仕方なかったあの頃」という記憶のメタファーとして描かれる。
きっと、この漁村が子供たちにとっての”おっさん穴”になっていくのだろうと思う。僕がここに生徒人数分でもある約30の洞窟を描いて作り、子供達はその”穴”とコンタクトし、絵を描くことで、 いつか大人になった時に思い出し立ち返るべき ”あの頃の感覚” を刻んで楽しんでもらえればと考え制作にあたった。なによりここは子供達の領域。個人的には過度な商業性にまみれた現代や他者と繋がりすぎてしまう社会、そして大人という浅ましさから距離を取るための穴を作りたいとも考えた。
制作しながら、自分のおっさん穴について立ち返った。今はもう無くなってしまったその場所。日の差さない大きな小屋の中。そこは孤独なものづくりの時間を僕に与えてくれた。そして現在、ほぼその時と変わりない孤独な制作の日々。今でもそれを続けられている日常を大切にしたい。